サンゴ礁の生態系の96%が「深刻な危機」 IUCN初の世界評価、日本の海がある4海域も
IUCNが世界のサンゴ礁を127の海域に分けて崩壊の危険を評価し、96%を「深刻な危機」とした。日本の海がある4海域も同じ判定で、小笠原やトカラ列島から屋久島・種子島の海は、過去50年の変化だけでもこの判定になった。
サイエンス- ●世界の127海域のうち122が「深刻な危機」、1つは崩壊済み
- ●日本の海がある4海域も、将来の予測を含めすべて同じ判定
- ●琉球列島などの海域で、サンゴが海底を覆う割合は56.5%から29.7%に
沖縄や奄美、小笠原の海は、旅行やダイビングで身近な人も多い。今回の報告書は、その海がどれだけ傷み、何が判定を重くしたのかを数字で示した。
IUCNは、今回の評価を各国が自国の海を評価するときの出発点にしたいとしている。日本の海をより細かく見る評価が続くかが、次の焦点になる。
世界のサンゴ礁を127の海域に分け、過去50年の変化だけで判定すると、「深刻な危機」は30海域にとどまる。そのうち2つは、日本の海だけからなる海域だった。小笠原諸島と、トカラ列島から屋久島・種子島にかけての海だ。
国際自然保護連合(IUCN)が2026年10月22日に公表した、サンゴ礁を生態系として初めて世界規模で評価した結果だ。種の絶滅のおそれを測る「レッドリスト」を生態系に広げた、「生態系のレッドリスト」の手法を使った。将来の海の暑さの予測まで含めると、127海域のうち122(96%)が最も重い「深刻な危機(Critically Endangered)」になった。
「崩壊」の一歩手前とされた122の海域
対象は熱帯と亜熱帯の浅いサンゴ礁188,362km²で、250人を超える専門家が、80を超える国と地域の礁を評価した。「深刻な危機」の122海域は評価した面積の99.8%を占め、グレートバリアリーフや東南アジアの「コーラル・トライアングル」も入った。オーストラリアの17海域は、すべてこの判定だ。ガラパゴス諸島の西部は、1982〜83年のエルニーニョ現象のあと、すでに「崩壊」とされている。
「深刻な危機」は、まだ崩壊ではない
IUCNのいう崩壊は、礁をつくる硬いサンゴがほとんど消え、海藻やがれき、海綿に置き換わった状態だ。評価では、硬いサンゴが海底を覆う割合が5%を下回る、深刻な白化が平均3年に1回以上起きる、などを崩壊の目安にした。
「深刻な危機」は崩壊の危険が極めて高いという判定で、多くのサンゴ礁にはまだ生きたサンゴが残っている。過去50年の変化だけで見た「深刻な危機」は、全体の24%だ。96%との開きを生んだのは、中程度の温暖化の想定(IPCCのSSP2-4.5。今世紀末までに2.7℃の気温上昇)のもとで、海の熱波が回復を待たずにくり返すという予測だった。
10月16日に伝えた造礁サンゴの再評価はサンゴの「種」が絶えるおそれを、今回はサンゴ礁が生態系として成り立つかを測ったもので、IUCNは2つを補い合う評価としている。
日本の海は4つの海域に分かれていた
東アジアの地域報告書(査読前の原稿)によると、日本の海は次の4海域に入る。将来の予測を含めた判定は4つとも「深刻な危機」で、差が出たのは過去50年の変化だけで見た判定だ。「危機(Endangered)」は、「深刻な危機」の1つ下の段階にあたる。
| 海域(英語名) | 含まれる日本の海 | 過去50年だけの判定 | 主な理由 |
|---|---|---|---|
| South Kuroshio | 奄美群島までの琉球列島、大東諸島、沖ノ鳥島 | 危機 | 海の熱波、魚の減少 |
| Central Kuroshio Current | トカラ列島、屋久島・種子島(北緯31度より北は対象外) | 深刻な危機 | 海の熱波 |
| East China Sea | 壱岐、対馬、五島列島 | 深刻な危機 | 海の熱波 |
| Ogasawara Islands | 小笠原群島、硫黄列島、南鳥島 | 深刻な危機 | サンゴ礁の狭さ、海の熱波 |
South Kuroshioには台湾南部やフィリピン北端、East China Seaには台湾や中国の沿岸なども含まれる。東アジアで過去50年の熱波による判定が重かった10海域は、どれも地域の縁にあり、4海域ともこの中に入る。
琉球列島ではサンゴの割合がほぼ半分に
South Kuroshioでは、硬いサンゴが海底を覆う割合が56.5%から29.7%に下がった。100m²あたりのブダイの仲間は1.04匹から0.34匹、ハタの仲間は0.09匹から0.03匹に減った。海藻を食べるブダイや食物網を支えるハタが減ると、サンゴは海藻に押されやすくなる。
トカラ列島から屋久島・種子島の海は、サンゴの割合が49.6%から44.6%とほぼ保たれた。一方、ブダイの仲間は0.17匹、ハタの仲間は0.01匹まで減った。比べたもとの値は、地元の記録がないためSouth Kuroshioのものを使っている。小笠原はサンゴの割合が56.4%から49.7%で、魚の数も変わっていない。それでも最も重い判定になったのは、過去の熱波が厳しかったうえ、サンゴ礁が約0.36km²(東京ドーム8個分ほど)と小さく、1回の白化や台風で失われかねないためだ。
勧められたのは、魚を守り、開発を抑えること
報告書は琉球列島などの海に、沿岸開発を減らし、乱獲されたブダイやハタの保護を強めるよう勧める。トカラ列島から屋久島・種子島の海には、禁漁区を広げることとオニヒトデの対策を挙げた。著者には、琉球大学と自然環境研究センターの研究者も加わった。
国内では、環境省が2022年3月に「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」を定めている。重点課題に「サンゴ群集に関する科学的知見の充実と継続的モニタリング・管理の強化」を掲げ、沖縄県の石西礁湖では、大規模な攪乱(サンゴが一度に広く傷む出来事)が起きても効果を失わない再生手法を確立するとしている。
行ったことのある海を地図で探す
IUCNは結果を、海域ごとに色分けした地図のサイトで公開している。過去の変化だけの判定にも切り替えられる。資料は英語で、10月26日時点で日本語版は見当たらない。
過去の変化だけなら24%、予測を含めると96%。IUCNはこの開きを、思い切った気候変動対策と的を絞った保全で、まだ結果を変えられる余地だと説明している。
- IUCN「Virtually all coral reef ecosystems face high risk of collapse in 50 years – IUCN Red List of Ecosystems」(2026年10月22日)
- IUCN「Red List of Coral Reef Ecosystems」(2026年10月22日)
- IUCN Red List of Ecosystems「Global Red List of Coral Reef Ecosystems: Results by ecoregion」(2026年)
- Flückigerほか「Red List of Ecosystems assessment of East Asian coral reefs」(東アジアの地域報告書・EcoEvoRxiv・査読前・2026年10月22日)
- Gudka編「Global Red List of Coral Reef Ecosystems: assessment methods」(2026年10月版)
- IUCN Red List of Ecosystems「Global Red List of Coral Reef Ecosystems – Explorer」
- 環境省「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030の策定及び意見の募集(パブリックコメント)の結果について」(2022年3月17日)
- 環境省「サンゴ礁生態系保全行動計画」
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月26日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。