イカ墨で「ここは僕のナワバリ」 ヤリイカの雄の墨吐きを東大などが世界で初めて報告
イカ墨は、敵から逃げるときの煙幕だけではなかった。縄張りを構えたヤリイカの雄が、ライバルの雄や雌に向けて、0.5秒ほどで消える少しの墨を吐くことを、東京大学などのグループが見つけた。見せるより、成分で伝える合図の可能性があるという。
サイエンス- ●縄張りを構えたヤリイカの雄は、ライバルの雄や雌に向けて墨を吐く
- ●墨は少なく、0.5秒ほどで見えなくなる。身を守るときの墨とは性質が違う
- ●成分で伝える合図の可能性がある。縄張りでの墨の使用は世界で初めての報告
食卓でもおなじみのヤリイカに、まだ知られていない行動があった。イカやタコの墨が、身を守る以外にどう使われ、どう進化してきたのかを考える手がかりになる。
墨のどの成分が、ほかのイカにどんな合図を伝えているのかは、まだ確かめられていない。成分を突き止めることが次の焦点になりそうだ(TECHNOVAの見方)。
イカ墨といえば、敵に襲われたときに吐いて、姿をくらます煙幕だ。ところが、縄張りを構えたヤリイカの雄は、敵ではなく同じヤリイカに向けて墨を吐いていた。東京大学大気海洋研究所の岩田容子准教授や細野将汰さん(研究当時は東京大学特別研究員)、北海道大学などのグループが見つけ、2026年10月26日に発表した。縄張りの行動に墨を使う例の報告は、世界で初めてだという。
墨は、身を守るためだけではなかった
イカやタコの墨は、ふつうは捕食者に襲われたときに使う。相手の視界をさえぎったり、自分の身代わりになる墨の塊を作って相手をだましたりする。
ただ近年は、獲物をとるときや、求愛、交接(交尾)のときに墨を使う例が相次いで報告されている。同じグループも2024年に、エゾハリイカが墨を暗幕のように使って求愛の舞台を作ることを報告した。イカやタコは、これまで考えられていた以上に、墨を器用に使い分けているらしい。
函館の大水槽で、縄張りの雄を見る
ヤリイカの雌は、岩や構造物のすき間に卵の塊を産みつける。雄はその産卵の場所を中心に縄張りを作り、入ってくるほかの雄を追い払う。イカの仲間で縄張りを作ることが知られているのは、ヤリイカだけだという。
グループは、函館市国際水産・海洋総合研究センターの大水槽で、縄張りを作った雄の行動をくわしく観察した。すると縄張りの雄は、ライバルの雄や雌に向けて墨を吐いた。近くに相手がいないときにも吐いていた。
0.5秒ほどで消える、さらさらの墨
縄張りの雄が吐く墨は、どれもごく少量で、水にすぐ広がって溶けた。吐いてから0.5秒後には、ほとんど見えなくなる。身を守るときの墨は、粘りけがあって塊のまま漂うので、性質が大きく違う。
吐き方にも決まった形があった。グループは、イカの胴体にあたる外套膜(がいとうまく)の向きを調べ、128回の墨吐きを分析した。ほとんどの場合、雄は吐く前は胴体を上向きか底と平行にして泳ぎ、吐いた直後から2秒ほどは胴体を下に向けて下へ泳いでいた。決まった動きで水の流れを作り、墨を効率よく広げているのかもしれない。
見せるより、成分で伝える合図か
グループは、この墨吐きが、縄張りの雄が自分の強さや魅力をほかのイカに示す役割を担っている可能性があるとみる。墨がすぐに広がって見えなくなることや、相手がいなくても吐くことを考えると、目で見せる合図よりも、墨に含まれる成分を通じた「化学的な合図」として働いている可能性が高いという。
墨という特徴は、捕食者から身を守るためだけでなく、さまざまな生き方の影響を受けて進化してきたのかもしれない。成果は学術誌「Ecology」に10月22日付で載った。グループは、イカの仲間の縄張りの行動がどう進化したのかを考える新しい視点にもなるとしている。
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月26日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。