ケルン大学、寒さで線虫の寿命が延びる代謝の仕組みを特定 人での効果は未確認
ケルン大学の研究チームが、寒さで線虫の寿命が延びる仕組みの一部を突き止めた。筋肉で増える物質「BH2」が体じゅうに運ばれ、寿命を延ばしていた。調べたのは線虫と人の培養細胞で、人の寿命が延びるかは分かっていない。
サイエンス- ●寒さで線虫の筋肉が「BH2」という物質を多く作ることが分かった
- ●BH2は腸や神経に運ばれ、アミノ酸のチロシン作りを通じて寿命を延ばす
- ●調べたのは線虫と人の培養細胞で、人の寿命が延びるかは未確認
健康で長生きする方法に関心がある人向けの基礎研究だ。寒い所で暮らしたり、サプリを飲んだりすれば長生きできる、という話ではない。
研究チームは、体温を変えずに寒さの良い効果をまねる治療法を探したい考えだ。薬になるかは分からず、時期も示されていない。
ドイツのケルン大学は2026年10月22日、寒さで線虫の寿命が延びる仕組みの一部を突き止めたと発表した。成果は学術誌「Nature」に2026年10月21日付で載った。
何が発表されたのか
研究したのは、ケルン大学の老化研究の拠点CECADなどの、David Vilchez教授らのチームだ。線虫は、研究によく使われる小さな虫である。線虫を20℃で育て、大人になってから15℃・20℃・25℃に移して比べた。
15℃の線虫で、20℃と25℃のどちらよりも増えた代謝物(体の中の化学反応で作られる物質)は64種類あった。別の実験でも、そのうち45種類で同じ結果が出た。その一つが「BH2(ジヒドロビオプテリン)」だ。
寒さで、BH2を作る最初の酵素CAT-4(人ではGCH1)も増えていた。BH2は筋肉で作られ、腸や神経に運ばれる。そこで「BH4」という働く形に変わり、アミノ酸の一つ「チロシン」を作る酵素を助ける。
筋肉だけでCAT-4を減らすと、寒さによる寿命の延びが小さくなった。逆に、遺伝子の操作で筋肉にBH2を多く作らせると、15℃だけでなく20℃や25℃でも寿命が延びた。チロシンを与えた線虫も、15℃と20℃で寿命が延びた。
かんたんに言うと
ケルン大学は、筋肉を「中央の工場」にたとえる。寒くなると工場がBH2という部品を多く作り、体じゅうに配る。届いた先で部品が仕上げられ、チロシン作りに使われる。
この流れは、病気に関わるタンパク質が固まるのも防いでいた。人の培養細胞でも同じ傾向が出た。BH2やチロシンを加えると、ハンチントン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)に関わるタンパク質の固まりが減った。ALSの原因となる変異を持つ神経の細胞では、細胞の死も減った。
研究の限界
寒い所で暮らせば長生きできる、という結果ではない。論文と大学の発表から、主な限界を挙げる。
- 寿命が延びたのは線虫で、マウスや人では試していない。人の細胞で見たのはタンパク質の固まりと細胞の死で、寿命ではない
- 線虫は、周りの温度で体温が変わる動物だ。論文が紹介するネズミの過去の研究も、体温そのものが0.5℃ほど下がった場合の話である
- 人の体では、BH4は血管などで別の酵素にも使われる。論文は、その酵素への影響を生きた体では確かめていないとしている
- 細胞の実験では、酸化ストレス(活性酸素などによる細胞への負担)がかかると、BH2の守る効果が消えた
- 寒さで増える物質はほかにも多く、BH2はその一部にすぎない可能性がある
ケルン大学も、寒さの長寿効果をまねる「錠剤」を作るのは、今の段階ではまだあまりに早いとしている。
日本ではどうなるのか
発表に日本についての記述はない。BH2やチロシンを使った治療法や製品の、日本での提供は発表されていない。今回の研究は、人がチロシンなどを飲んで確かめたものでもない。
まとめ
線虫で、寒さが筋肉を通じて全身の寿命に効く流れが見えてきた。研究チームは、体温を変えずに寒さの良い効果をまねる治療法を探したいという。大学は、ハンチントン病やALSなどの治療法の研究の出発点になるとしている。
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月23日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。