チョルノービリ(チェルノブイリ)原発の犬に自然選択の痕跡 放射線のせいとは限らない
チョルノービリ原発の敷地で暮らす犬のゲノムに、自然選択の痕跡が見つかった。米ノースカロライナ州立大学などが発表した。突然変異が増えた証拠はなく、もともと有利な違いのあった犬が生き残った可能性もあるという。
サイエンス- ●原発で暮らす犬のゲノムに、自然選択をうかがわせる痕跡が100か所超
- ●突然変異や偶然の広がりでは、2つの群れの違いを説明しにくい
- ●放射線が原因とは限らず、何が起きたのかはまだ分からない
チェルノブイリの犬は放射線で突然変異した、と聞いたことがある人には、見方を改める材料になる。犬の調査は、汚染された土地で働く人の健康を考える手がかりにもなる。
選択の痕跡と、放射線や重金属などの汚染との結びつきは、まだ示されていない。原因を絞り込めるかが次の焦点になりそうだ。
1986年の原発事故から40年。チョルノービリ(チェルノブイリ)で暮らす犬の遺伝子に、首をかしげたくなる結果が出た。市の犬は、16km先の原発の敷地にいる犬より、太平洋に浮かぶガラパゴス諸島の犬のほうに近かったのだ。どうやら、変わっているのは原発の犬のほうらしい。
米ノースカロライナ州立大学は10月28日、原発の敷地で暮らす犬のゲノムに「方向性選択」の痕跡が見つかったと発表した。環境に有利な特徴のある個体が子を多く残し、集団全体がその特徴の側へ寄っていく自然選択のことだ。論文は学術誌「Genes」に9月27日付で載った。
もっとも、「放射線で犬が進化した」と読むのは早い。研究チームは、選択の痕跡と放射線を結びつけるところまでは踏み込んでいない。
原発のまわりの汚染された地域には、数百匹の犬が暮らす。チームは2023年の論文で、原発の敷地と市の2つの群れが、近くにいながら遺伝的に大きく違うことを示した。違いのある391の領域の一部には、傷ついたDNAを修復する遺伝子が含まれていた。
では、放射線で突然変異が増えたのか。2024年12月の論文では、その証拠は見つからなかった。今の犬は、1986年の事故のときにいた犬から数えて30世代以上あとの子孫にあたる。
偶然の広がりでは説明しにくい
残る候補は、自然選択と遺伝的浮動だった。遺伝的浮動は、生き残りやすさと関係のない遺伝子の違いが、偶然に集団へ広がることをいう。小さく孤立した群れほど起きやすい。
そこでチームは、東ヨーロッパで自由に繁殖する犬や、ガラパゴス諸島で孤立して暮らす犬のデータと比べた。遺伝子から見積もった集団の大きさは、原発のほうが小さいものの、市と大きな差はなかった。遺伝的な多様性が減った様子もない。孤立しているせいだけなら、ほかの孤立した群れに似てもよさそうなものだ。ところが原発の犬は、ガラパゴスの犬を含むそうした群れとも大きく違っていた。
痕跡のある場所の近くには、がんの発生やDNAの複製と修復、細胞周期、免疫に関わる遺伝子があった。筆頭著者のミーガン・ディロン博士研究員によると、犬が有害物質の影響を乗り越えるのに役立ったかもしれない働きだという。
もともと強い犬が生き残ったのか
それでも、チームは言い切らない。ディロン博士研究員は「選択だと断定はできないが、選択をうかがわせる痕跡は見つかった」と慎重だ。
責任著者のマシュー・ブリーン教授の見立ては、こうだ。環境に適応するためにゲノムそのものが変わった、というところまでは行っていないかもしれない。事故の直後の被ばくを生き延びた犬が、もともと有利な遺伝子の違いを持っていた可能性がある。教授は「もちろん推測で、正確に何が起きたのかは分からない」と付け加える。
原因を放射線に絞れない事情もある。事故とその後の除染などの作業で、まわりの環境には重金属や有機化合物といった有害物質も残った。論文は、選択が現地の環境の要因と結びついている可能性がある、と書くにとどめている。
今回の成果は研究の段階で、病気の検査や治療にすぐ結びつくものではない。ただ、原発の周辺では、ロシアの侵攻が始まるまで毎日何千人もの人が除染や建設の仕事をしていた。チームは、そこで暮らす犬を調べれば、人が受けうる健康リスクも見えてくるとみる。
16km先の犬が、なぜ海の向こうの犬より遠い存在になったのか。その答えは、まだ出ていない。
編集部が確認:。確認した監修者は、この下に載せています。
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。