銀河の中心からはじき出された巨大ブラックホールの証拠か 10年前の予測どおりの傾向
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)などのチームが、約10万個のクエーサーを調べ、速く動くブラックホールほどちりに覆われる傾向を見つけた。合体の反動ではじき出されたと考えると説明でき、10年前の予測に合うという。
サイエンス- ●約10万個のクエーサーで、速く動くものほどちりに覆われる傾向
- ●合体の反動ではじき出されたブラックホールで説明できるという
- ●10年前の同じグループの予測に合うが、ほかの説明もまだ残る
暮らしにすぐ関わる話ではない。ただ、巨大ブラックホールがどれほど合体してきたかを知る手がかりになる。宇宙や重力波に関心がある人向けの話だ。
論文は、ほかの光での分析など、さらに確かめる必要があるとしている。2035年に打ち上げ予定の重力波の観測機「LISA」の見通しにも役立つという。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)などの研究チームが、2026年10月16日に研究の成果を発表した。約10万個のクエーサー(とても明るく輝く銀河の中心)を調べ、中心からはじき出された巨大ブラックホールがある統計上の証拠を見つけたという。同じグループが10年前に予測した傾向だ。論文は英国の天文学誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に載った。
何が分かったのか
研究を率いたのは、英国のバーミンガム大学のBence Bécsy氏(ELTE出身)だ。チームは、天文観測計画「スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)」のクエーサーの一覧(約75万個)を使った。条件を満たす約10万個で、ブラックホールの速さと光の赤さ(ちりの量の目安)を測り、関係を調べた。
その結果、速く動くブラックホールを持つクエーサーほど、平均して赤い、つまりちりに覆われている傾向が出た。強くちりに覆われたものの割合は、速さがほぼ0のときの約6%から、最も速いところで約20%へと約3倍に増えた。
傾向の強さを示す数値(相関係数)は約0.13と控えめだ。それでも数が多いため、偶然とは考えにくいという。ブラックホールと動きを共にしないガスの光どうしで比べると、傾向はほぼ消えた。
10年前の予測とは
2016年、ELTEのPeter Raffai准教授とZsolt Frei教授らは、計算機のモデルで予測を立てた。はじき出されたブラックホールが銀河の中心を行き来していたら、速さとちりの量に関係が出るはずだ、というものだ。大きなクエーサーの一覧で確かめられるとも指摘していた。
かんたんに言うと
2つの銀河が合体すると、中心の巨大ブラックホールどうしも合体する。そのとき出る重力波(空間のゆがみが伝わる波)が一方に偏ると、残ったブラックホールは鉄砲の反動のような「キック」を受ける。速さは時速数百万キロメートルに達しうる。
銀河から飛び出すほどでなければ、振り子のように中心を行き来し、中心を通るときに最も速くなる。そこはちりも最も濃い。だから「速いほどちりが多い」はずだ、という理屈だ。
限界
Bécsy氏は「1つのクエーサーで、ブラックホールがはじき出されたと証明するのはとても難しい。ほかの現象でも似た兆候が出るからだ」と話す。今回の結果も、集団としての傾向だ。ガスの風や流れ込みなど、ほかの説明も残る。近づくものと遠ざかるもので傾向に差があり、理由はまだ分かっていない。
解釈が正しければ、調べたクエーサーの約半数で最近ブラックホールが合体したことになる。ただ、この見積もりも不確かだという。
日本との関わり
この研究に日本の機関は加わっておらず、日本語での発表も見当たらない。データを公開したSDSSの第4期には、東京大学のカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)も参加している。
記事の上の画像は、はじき出された候補とされるクエーサー「3C 186」のハッブル宇宙望遠鏡の写真で、今回の研究の対象ではない。
まとめ
ESA(欧州宇宙機関)は2035年に、巨大ブラックホールの合体の重力波をとらえる観測機「LISA」を打ち上げる計画だ。今回の結果は、LISAが見つけられる合体の数の見通しにも関わるという。銀河の中心を離れたブラックホールの別の例は、星を引き裂く光で見つかったブラックホールの記事で紹介している。そちらは、合体の反動ではないとされる例だ。
- ELTE「Predicted a Decade Ago, Now Discovered」(2026年10月16日)
- Bécsy ほか「Statistical evidence for massive black hole recoils in active galactic nuclei」(Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 550巻4号・arXiv)
- 同論文の本文(arXiv・第2版・掲載版と同じ内容)
- Raffai ほか「A Statistical Method to Search for Recoiling Supermassive Black Holes in Active Galactic Nuclei」(Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 455巻・2016年・arXiv)
- SDSS「Data Release 16」
- SDSS「How to Cite SDSS」(SDSS-IVの参加機関)
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月23日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。