注射器を背負う「サイボーグゴキブリ」、がれき下の救助を想定した実験で成功72%
豪クイーンズランド大学などの研究チームが、生きたゴキブリに注射器やカメラを背負わせ、電気の刺激で操る仕組みを開発した。がれきの下の人に薬を届ける想定で、的まで進んで注射する実験は25回中18回成功した。
ロボティクス- ●生きたゴキブリに注射器を背負わせ、電気の刺激で操って的に注射させた
- ●的まで進み注射する実験は25回中18回成功。15cm以内なら最大約95%
- ●的は人の肌に似せたシリコーン。人に使うには安全の確認がこれから
地震で崩れた建物の下など、人が入れないすき間に薬を届ける研究だ。災害の多い日本でも、将来の救助の道具の候補になりうる。
研究者は、研究と現場の試験を早める資源がそろえば5〜10年で実際の救助に使われてほしいと話す。論文は、その前に臨床での検証が要るとする。
豪クイーンズランド大学(UQ)とニューサウスウェールズ大学の研究チームが、「Paraborg(パラボーグ)」を開発した。生きたゴキブリに注射器やカメラを背負わせ、遠隔で操る仕組みだ。崩れた建物の下に取り残された人へ、救助が来るまで薬を届ける想定だ。論文は2026年8月5日に学術誌「Advanced Science」に載り、UQが8月27日に発表した。
何が発表されたのか
使ったのは、体重が約34〜40gある大型のヨロイモグラゴキブリだ。注射の機材一式は約17gで、背負っても歩き方に目立った差は出なかったという。
カメラを積む「見張り役」と、注射器を積む「注射役」の2匹で組む。見張り役の映像を見ながら、人が注射役を的まで導く。論文は、薬を使う最終判断は医療の専門家や救助隊に残すべきだとしている。
どう操り、何を注射するのか
動きは電気の刺激で操る。触角と、おしりの先の「尾角」(空気の動きを感じる突起)に細い電極を入れる。左の触角を刺激すると右へ、右だと左へ曲がる。両方の尾角では前へ速く進み、両方の触角を同時に刺激すると止まる。指示は背中の基板へ無線で送る。
注射は、ばねと化学反応で自動で進む。電流で金属の線を熱して釣り糸を焼き切ると、縮めたばねが注射器を撃ち出す。その瞬間に中の仕切りが破れ、クエン酸と炭酸水素カリウムが混ざる。出てきた二酸化炭素の圧力でゴムの栓が押され、針から液が入る。液をためる部分は0.5mLだ。
論文が想定するのは、救助までの間に容体を保つための液体の薬だ。ただ、補足資料によると、装置の試験で注射したのは赤い液体だった。実際の薬との相性や、治療に足りる量を届けることは今後の課題としている。
実験の結果
5匹で25回試した。3つの目印を通って的に近づくところまでは、25回とも成功した。的は、人の肌に性質が近いシリコーンだ。
注射まで成功したのは25回中18回で、72%だった。うち12回は、頭が的に触れた状態で撃った。失敗のうち5回は約150〜250mm離れて撃ち、注射器が刺さらずにはね返った。残る2回は、撃つときに急に向きを変え、注射器が壁に当たった。論文は、的から150mm以内なら成功は最大約95%になるとする。装置だけを豚の皮で試すと、90%が成功した。
論文が挙げる課題
実験は整った場所で行い、がれきや砂のある現場とは違う。コンクリートや土は無線の電波を弱める。注射器が刺さる力は約6〜10Nで、人の肌に細い針を刺す力より大きい。論文は、シリコーンでの結果を人への安全な注射の証拠とは読めないとする。ばねを弱め、的に触れてから撃つ方法などを挙げている。
生き物を使うことについて
論文は、背骨の無い動物の研究の倫理の決まりはまだ定まっていないとする。そのうえで、虫が不快を感じうるものとして扱ったと補足資料に書く。電極は麻酔をして入れ、実験の後は外して飼育の群れに戻した。実験した5匹のうち4匹は、2026年6月の時点で生きているという。
日本ではどうなるのか
研究の段階で、製品化や日本での利用の予定は発表されていない。著者に日本の大学や機関の所属は無い。
まとめ
UQのタン・ヴォー=ドアン氏は発表で、救助隊の代わりでなく、近づけない人を助ける別の手段にしたいと話す。研究と現場の試験を早める資源がそろえば、5〜10年で実際の救助に使われてほしいとも述べた。論文は、実用には機器や制御、現場での検証に大きな進歩が要るとしている。
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月23日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。