心肺の体力が高い女性は、遺伝による乳がんのなりやすさの上がり方が小さい 早稲田大などが閉経後の約1万5000人を分析
早稲田大学などの研究グループは、英国の閉経後の女性15,199人のデータを分析し、心肺の体力(全身持久力)が高い人では、遺伝的に乳がんになりやすい場合でも、なりやすさの上がり方が小さいことがわかったと発表した。ただし、運動で遺伝のリスクを打ち消せると言えるわけではないとしている。
サイエンス- ●閉経後の女性15,199人を約10.7年追いかけ、心肺の体力と、遺伝から見た乳がんのなりやすさの関係を調べた
- ●遺伝的になりやすい人でも、心肺の体力が高いと、乳がんになりやすさの上がり方が小さかった
- ●観察の研究で、体力を高めれば乳がんが減るという因果関係までは証明していない
家族に乳がんの人がいるなど、遺伝のことが気になる人にとって、「生まれ持ったものだけで決まるわけではないかもしれない」と考える材料になる。ただし、運動すれば防げると言える結果ではない。気になる人は、医師に相談したい。
研究グループは、体力を何度も測って変化を追う研究や、ヨーロッパ系以外の人を対象にした研究で、さらに確かめる必要があるとしている。将来は、遺伝の情報と生活習慣や体力の両方を考えた、一人ひとりに合った予防につなげたいという。
早稲田大学スポーツ科学学術院の谷澤薫平准教授らと、中国の西安交通大学などの研究グループは2026年10月16日、心肺の体力が高い閉経後の女性では、遺伝的に乳がんになりやすい場合でも、なりやすさの上がり方が小さいことがわかったと発表した。研究の成果は、スポーツ医学の学術誌「Medicine & Science in Sports & Exercise」に10月6日に載った。
どんな研究か
乳がんは、世界の女性で最も多く見つかるがんだ。生活習慣や肥満、ホルモンなどのほか、遺伝も深く関わっている。一方で、これまでの研究から、心肺の体力が高い人ほど乳がんになりにくいことも報告されていた。
ただ、遺伝と体力を同時に調べ、組み合わせると乳がんのなりやすさがどう変わるかを見た研究は、これまで無かったという。
研究グループは、英国で約50万人の遺伝情報や生活習慣、病気の情報を長く集めているデータベース「UK Biobank」を使い、閉経後の女性15,199人を分析した。
- 心肺の体力: 運動するときに酸素を取り込み、全身に運んで使う力。全身の持久力のことだ。今回は、自転車をこぐ運動の試験から、体がどれだけ酸素を取り込めるか(最大酸素摂取量)を推定した
- 遺伝のなりやすさ: 乳がんに関わるたくさんの遺伝子のわずかな違いをまとめて点数にした「多遺伝子リスクスコア(PRS)」で表した
わかったこと
約10.7年の追跡の間に、547人が乳がんになった。
まず、それぞれを別々に見ると、次のとおりだった。
- 遺伝の点数が最も高い4分の1の人は、最も低い4分の1の人より、乳がんになりやすさが4.27倍だった
- 心肺の体力が最も高い4分の1の人は、最も低い4分の1の人より、乳がんになりやすさが約28%低かった
次に、2つを組み合わせて見た。遺伝の点数が低〜中程度で、体力も低〜中程度の人を基準にすると、次のようになった。
| 遺伝の点数 | 心肺の体力 | 乳がんのなりやすさ(基準との比) |
|---|---|---|
| 高い | 低〜中程度 | 2.59倍 |
| 高い | 高い | 1.64倍 |
つまり、遺伝的になりやすい人でも、体力が高い人では、なりやすさの上がり方が小さかった。この傾向は60歳以上の女性ではっきりしていて、体力も高い人のなりやすさは1.30倍にとどまり、統計的にはっきりした上昇は見られなかった。一方、40〜59歳の女性では、こうした関係は見られなかった。
結果を読むときの注意
研究グループは、この結果から「運動で遺伝による乳がんのなりやすさを打ち消せる」とは言えないと強調している。
- 心肺の体力は、運動だけでなく、遺伝やほかの体の特徴にも左右される。体力の高い人が、乳がんになりにくい別の特徴も持っていた可能性がある
- 今回は人を観察した研究で、体力を高めると乳がんが減るという因果関係を直接示したものではない
- 体力は運動の試験から推定した値で、測ったのは研究の始めの1回だけ
- 対象は、ヨーロッパ系の遺伝的な祖先を持つ英国の白人の女性に限られ、ほかの人たちに当てはまるかはわからない
かんたんに言うと
生まれ持った遺伝で乳がんになりやすい人でも、息が切れにくい体力のある人は、なりやすさの上がり方が小さかった、という研究だ。遺伝は変えられないが、体力は変えられるかもしれない要素だ。ただし、「運動すれば遺伝の分を帳消しにできる」とまでは言えない。
日本ではどうなるのか
研究の対象は英国の女性で、日本人に同じ結果が当てはまるかは、まだわからない。研究グループは、遺伝のなりやすさが高いことが、必ずしも将来の乳がんを決めるわけではなく、変えられる要素に目を向けることが大事だと示す結果だとしている。今後は、遺伝の情報と、生活習慣や体力の両方を考えた、一人ひとりに合った予防につなげたいという。
まとめ
早稲田大学などの研究グループは、閉経後の女性約1万5000人のデータから、心肺の体力が高い人では、遺伝による乳がんのなりやすさの上がり方が小さいことを示した。観察の研究で因果関係までは証明していないが、遺伝だけで将来が決まるわけではない可能性を示す結果だ。