魚の群れの「インフルエンサー」は1匹だけ?VRの水槽で実験
群れで泳ぐ魚は、周りの全員ではなく、いちばん影響が大きい1匹に動きを合わせているらしい。フランスの研究チームが、本物の魚と映像の仲間を同じ水槽で泳がせ、仲間の動かし方を3通りに変えて比べた。
サイエンス- ●直径50cmの丸い水槽の壁に、仮想の魚4匹を下から映して泳がせた
- ●1匹だけに合わせる決まりが、本物の魚の泳ぎといちばんよく合った
- ●仮想の魚は水の流れを生まず、本物の群れと同じではない
熱帯魚の群れを眺めるとき、どの魚も近くのだれか1匹を手本にしていると思って見ると、そろった動きの見え方が少し変わりそうだ。
魚がどうやって影響の大きい1匹を選ぶのかは、まだ分からない。ドイツの研究者Li氏は、この仮想の水槽が答えを探す強力な手段になりうるとみる。
米国物理学会(APS)の解説誌Physics Magazineが10月29日、「群れで泳ぐ魚には、インフルエンサーが1匹しかいないのかもしれない」という題で、フランスの研究を紹介した。数百匹がそろって泳ぐ群れでも、1匹ずつは周りの全員の動きを平均するのではなく、主にいちばん影響が大きい仲間についていくらしい。
研究チームは、フランス国立科学研究センター(CNRS)とトゥールーズ大学のGuy Theraulaz氏ら。VRの水槽で本物の魚1匹と、壁に映した仮想の魚4匹を一緒に泳がせ、本物がどの仲間に合わせるのかを調べた。1
魚は泳ぎながら、近くにいる仲間との距離や速さ、向きを読み取って進路を調整していると考えられている。情報の使い方には複数のモデルが提案されてきたが、どれが正しいかを確かめるのは難しい。「魚の頭の中で何が起きているのかは分からない」とTheraulaz氏は話す。それなら、魚に見せる手がかりのほうを思いどおりに作ればいい。
近くに見せたい仲間を、遠い壁に大きく映す
実験の舞台は、水を張った直径50cmの丸い水槽だ。壁には特別なプラスチックを使い、水中のスクリーンにした。下から仮想の魚を映すと、中の魚には群れに囲まれているように見える。
とはいえ、本物の魚はじっとしていない。研究チームは水槽の上に置いた3Dカメラで魚がどこにいるかを追い、映す場所と大きさを変え続けた。たとえば魚が左側にいて、すぐ右に仲間を見せたいときは、魚から遠い右側の壁に大きな像を映す。
使った魚は、南米にすむ体長3cmほどのラミーノーズテトラ。群れをつくる性質が強い。これまでのVRの実験は水槽が小さく、比較的小さな魚が平面で動く様子しか追えなかった。今回の水槽なら、上下の動きも調べられる。
3つの決まりのうち、合ったのは「1匹だけ」
仮想の魚の動かし方は、研究チームが以前、この魚を2匹ずつ泳がせて調べた結果に基づく。1匹が相手に動きをそろえる度合いを、研究チームは「影響」と呼ぶ。影響は相手の位置で変わり、相手が約5cm前を泳ぐときにいちばん大きかった。
では、仲間が何匹もいるときはどうするのか。候補は次の3つだ。
- いちばん影響が大きい1匹だけについていく
- 影響が大きい順に2匹を選び、その影響を平均して向きを決める
- 周りの4匹すべての影響を平均する
試行ごとに仮想の魚をどれか1つの決まりで動かし、本物の魚の泳ぎを記録した。その記録をシミュレーションと比べると、観察にいちばんよく合ったのは1つ目の決まりに基づくモデルだった。
この1匹は、群れを率いるリーダーではない。位置関係で選ばれ、魚どうしが動き回るうちに入れ替わる。
ドイツのマックス・プランク動物行動研究所のLiang Li氏は、決まりを変えると本物の魚も泳ぎを変えたことから、この魚が「仮想の群れと本当にやりとりしている」とみる。
もっとも、映像の群れは本物と同じではない。仮想の魚は水の流れを生まないが、その流れが群れの動きに関わっている可能性がある。それでもTheraulaz氏は「魚は周りの全員に注意を払っているわけではない」と話す。アリのような社会性の動物も似たように情報を絞り込んでおり、正しい情報を選べば、頭の負担を抑えつつ仲間と動きを合わせられるという。
同氏は、人も人ごみの中を「泳ぐ」ときに、同じような絞り込みをしているとみる。前を行く1人の背中だけを追って雑踏を抜けた覚えは、だれにでもありそうだ。
注
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論文はZ. Kangほか「Decoding social integration in schooling fish using closed-loop real-virtual interactions」(PRX Life 4巻、043007、2026年10月29日)。ラミーノーズテトラの学名はHemigrammus rhodostomus。 ↩
編集部が確認:。確認した監修者は、この下に載せています。
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。