【解説】AIを「手元のパソコン」で動かす時代へ RTX Sparkと新しいWindowsで何が変わるのか
MicrosoftとNVIDIAが、大きなAIをネットにつながずパソコンの中で動かす新しいPCを打ち出した。カギは、CPUとGPUが分け合う大きなメモリと、AIを小さくして載せる工夫、そして手元とクラウドを使い分けるWindowsの仕組みだ。何が新しく、私たちに何が関係するのかを解説する。
AI- ●CPUとGPUが最大128GBのメモリを分け合い、大きなAIが載る
- ●Windowsは、作業ごとに手元とクラウドのAIを使い分ける
- ●今は開発者やクリエイター向けの高価なPCが中心
仕事でAIをたくさん使う人や、データを外に出したくない人には、手元のAIが選択肢になる。ふだん使いのPCでも、手元とクラウドを使い分ける機能が順に入ってくる。
RTX Sparkを積んだPCは各社から10月16日以降に出荷が始まり、小型デスクトップは年内に出る予定。Copilot+ PC向けのハイブリッドの機能も、今後数か月で順に提供される。
MicrosoftとNVIDIAは2026年10月7日(米国時間)、大きなAIをネットにつながずパソコンの中で動かせる新しいPCと、それを生かすWindowsの仕組みを発表した。Surface Laptop Ultraなど製品そのものは別の記事で紹介した。ここでは、なぜ今「手元のAI」なのか、何が新しいのか、私たちにどう関係するのかを解説する。
なぜ今「手元のAI」なのか
いまのAIの多くは、インターネットの向こうにある大きなコンピューター(クラウド)で動いている。使った量に応じて料金がかかり、送った文章やファイルはいったん外に出ていく。
Microsoftは、AIのモデルが大きく賢くなるにつれて、企業がやりたいことがクラウドの予算に収まらなくなってきたと説明する。AIが人の代わりに作業を進める「エージェント」は、一日中動き続けることもあり、求められる計算も増える。NVIDIAは、新しいPCなら多くのクラウドのAIに並ぶ賢さのモデルを、使った量を気にせず、データをクラウドに送らずに動かせるとしている。
何が新しいのか:メモリを「分け合う」チップ
カギになるのは、NVIDIAの新しいチップ「RTX Spark」だ。画像やAIの計算が得意なGPU(最大6,144コア)と、PC全体の処理を受け持つCPU(最大20コア)を一つにまとめ、毎秒600GBでつないでいる。そして、最大128GBのメモリを両方で分け合う「ユニファイドメモリ」を使う。
AIは、動かすときに中身をまるごとメモリに広げる必要がある。これまでのPCでは、AIの計算を担うGPUが使えるメモリが限られ、大きなAIは「載らない」ことが多かった。MicrosoftのWindows担当の幹部は、RTX Sparkなら「従来のPCには収まらないモデルを、このノートPCで動かせる」と話す。Microsoftは、1,200億を超えるパラメーター(AIの規模を表す数)のモデルを手元で動かせるとしている。
ただし、注意点もある。128GBのすべてをGPUが使えるわけではなく、どれだけ使えるかは構成や作業によって変わる。AIの性能の「最大1ペタフロップス」も、特定の計算方法での理論上の値だ。
AIを小さくして載せる工夫
メモリに載せるため、AIそのものを小さくする工夫も進んでいる。「量子化」と呼ばれる方法で、AIの中の数字を細かく持つのをやめ、少ない桁で表すことで、全体の大きさを縮める。
Microsoftによると、プログラミング向けのAI「MAI Code 1.1 Flash」(全体で1,370億パラメーター)は、3ビットの細かさにすることで大きさを8割近く減らしながら、質を保ったという。NVIDIAがこれから出す700億パラメーターを超えるモデルも、2ビットにして20GBあまりのメモリで動かせるようにする。2,840億パラメーターの「DeepSeek V4 Flash」なども、RTX Sparkの上で動かせるとしている。
手元とクラウドを使い分ける「ハイブリッド」
Microsoftは、手元のAIとクラウドのAIを組み合わせる考え方を「ハイブリッドインテリジェンス」と呼ぶ。作業ごとに、手元で済むものは手元で、より賢いAIが要るものはクラウドで動かし、クラウドの利用料を節約する。
その第一歩として、作業ごとに合うAIを選ぶGitHubの仕組み「HydraFusion」を、手元で動くモデルにも振り分けられるようにする。GitHub CopilotのアプリやVisual Studio Codeなどで、10月中に試験的に使えるようになる予定だ。
ふだん使いのPCにも広がる。AIの処理に向いた部品を積んだ「Copilot+ PC」では、利用者の許可を得て、AIアシスタントのCopilotがPCの中のファイルを参照したり、PCの操作を代わりにしたり、手元のAIを使ったりできるようにする。今後数か月で順に提供する予定だ。Microsoftによると、Copilot+ PC全体で、すでに毎月2兆回を超えるAIの処理がPCの中で行われている。
AIにPCの操作を任せるには、何をさせてよいかの線引きが欠かせない。Windowsでは、エージェントが触れるファイルやネットワークを決めておく仕組み「Microsoft Execution Containers(MXC)」の一般提供を始めた(詳しくはこちらの記事)。
かんたんに言うと
AIを動かすには、大きな作業机(メモリ)が要る。RTX Sparkは、机を大きくし、CPUとGPUが同じ机を使えるようにした。量子化は、資料を小さく畳んで机に載せる工夫だ。そしてWindowsは、手元の机で済む仕事と、外の大きな事務所(クラウド)に頼む仕事を振り分ける係になろうとしている。
私たちにどう関係するのか
今回のRTX Spark搭載PCは、Microsoftが「ビルダーPC」と呼ぶ、開発者やクリエイター向けの高性能な製品だ。価格も高く、ふだんのメールや表計算、動画を見るくらいなら、今のPCで困ることは少ないだろう。
一方で、AIをたくさん使う仕事をする人や、社外にデータを出したくない会社にとっては、新しい選択肢になる。ふだん使いのCopilot+ PCにも、手元とクラウドを使い分ける機能は順に入ってくる。
なお、Surface Laptop Ultraは、Arm向けのWindows(Windows on Arm)で動くPCだ。MicrosoftはArm版Windowsで遊べるゲームが増えているとしているが、仕事で使うソフトが動くかどうかは、買う前に確かめておきたい。
日本ではどうなるのか
Surface Laptop Ultraは、日本のMicrosoft Storeで51万3,480円から予約を受け付けている。ASUS JAPANも、RTX Sparkを積んだ「ProArt P16」「ProArt P14」を、日本で10月下旬以降に発売する予定と発表した。開発者向けの「Surface RTX Spark Dev Box」は、米国のMicrosoft.com限定だ。Copilot+ PC向けのハイブリッドの機能を日本でいつ使えるかは、まだ示されていない。
まとめ
AIは「ネットの向こうで動くもの」から、「手元とクラウドで分けて動くもの」へ変わり始めている。いまは高価なPCが中心だが、AIを手元で動かす仕組みは、これからのPC選びで見るべき点の一つになりそうだ。
- Microsoft「Building Windows for hybrid intelligence」(2026年10月7日)
- Microsoft Devices Blog「Pre-order our most powerful Surface devices ever」(2026年10月7日)
- NVIDIA Blog「NVIDIA, Microsoft Kick Off a New Beginning for Windows PCs With RTX Spark and AI Agents」(2026年10月7日)
- Microsoft「Surface Laptop Ultra」(日本語)
- ASUS JAPAN「ProArt P16 (H7607)」「ProArt P14 (H7407)」日本取り扱いを発表(PR TIMES・2026年10月8日)