NSAが渡した暗号の「種」の謎、Claudeが30分足らずで解明 元は1990年代の時刻
Anthropicは、AIのClaudeが、ウェブの安全を支える暗号の数字「種」の出どころを30分足らずで突き止めたと発表した。NSAが説明なしに渡し、裏口の疑いもあった数字だが、元は1997〜98年の時刻から作った乱数だった。
AI- ●NSAが説明なしに渡した暗号の「種」の作り方を、Claudeが突き止めた
- ●元は1997〜98年の時刻から作った乱数で、裏口の疑いは薄まった
- ●懸賞を出した暗号の技術者も再現して確認。利用者の対応は不要
スマホやパソコンでウェブを見るときの安全を支える暗号の話だ。Anthropicは、利用者がすることは何もないとしている。
B-163の種や、P-256などの「基準の点」の作り方は、まだ分かっていない。Anthropicは、種を作り直すプログラムを誰でも使える形で公開している。
Anthropicは2026年10月16日、AIの「Claude」が、米国の暗号の標準にある数字「種(seed)」の出どころを突き止めたと発表した。種は米国家安全保障局(NSA)が説明なしに渡したもので、裏口があるのではと長く疑われてきた。
何が謎だったのか
問題の暗号は、電子署名の方式「ECDSA」だ。電子署名は、データが本物で書き換えられていないことを確かめる仕組みだ。米国立標準技術研究所(NIST)は2000年1月27日付の標準「FIPS 186-2」で、P-256などの曲線を定めた。2023年2月の今の文書「SP 800-186」にも、P-256は同じ種とともに載っている。曲線の形を決める数字の一部は、種から計算して作る。
ところが、種をどう選んだかは書かれていなかった。種を自由に選べれば、わざと弱い曲線を選べたかもしれない。NSAで種を用意したJerry Solinas氏は、冗談の言葉から作ったが言葉は忘れたと話し、2023年に亡くなった。同じ年、暗号の技術者のFilippo Valsorda氏が、種の元を見つけた人に懸賞を出すと呼びかけた。同氏によると、P-256とP-384は、ウェブの多くを守る証明書に使われている。
Claudeは何を見つけたのか
Anthropicによると、10月に社員が社内の研究用のモデルに、手がかりを示さずに種の作り方を尋ねた。Claudeは30分足らずで、P-192、P-224、P-256、P-384、P-521の種の出どころを突き止めた。
種の元は言葉ではなかった。1990年代のC言語(プログラムを書く言葉の一つ)に付いていた、乱数(でたらめに見える数)の仕組み「lrand48」の出力だった。Claudeは、古い乱数には見分けられる癖があると考えた。数字の並びから仕組みの状態を割り出し、出発点までさかのぼると、どれも1997年5月から1998年4月の間の時刻だった。P-256は、1997年8月16日の時刻から始めて1,842番目の候補だった。
かんたんに言うと
種は、くじの番号のようなものだ。曲線は、その番号を決まった計算にかけて作る。計算の方法は公開されているので、番号が分かればだれでも同じ曲線を作り直せる。ただ、番号をどう引いたかが分からず、都合のよい番号を選んだのではと疑われていた。今回分かったのは、時計の時刻を元にした機械のくじだったことだ。好きな番号を選べる余地は小さい。
誰がどう確かめたのか
Anthropicは、種を作り直すプログラムを誰でも使える形で公開した。Valsorda氏も10月16日、自分で書き直して確かめたと発表した。懸賞金は寄付を選んで3倍の3万6,864ドルとなり、「Let's Encrypt」を運営する非営利団体ISRGに贈られる。
安全性は変わるのか
Anthropicは、暗号が破られたわけでも、新しい攻撃方法が見つかったわけでもないとする。時刻から作るありふれた乱数だったため、裏口がある可能性はずっと低くなったという。利用者がすることは何もないとしている。Valsorda氏も、NSAがどの時刻を選べたとしても、弱い曲線を狙うには自由が足りないと説明した。
ただ、B-163という曲線の種はまだ分からない。P-256などの「基準の点」(鍵を作るときの出発点になる点)の作り方も不明だ。条件を満たす候補を飛ばした理由も分かっていない。Anthropicは、飛ばした数は少なく、弱い曲線をわざと選んだとは考えにくいとしている。
日本ではどうなるのか
日本の政府機関がシステムの調達で使う「CRYPTREC暗号リスト」は、署名の方式としてECDSAを載せている。鍵の長さの選び方を定めた基準(2022年3月)は、128ビットの強さの曲線の一つにP-256を挙げる。CRYPTRECの注意喚起のページは、23日の時点で「現在、注意喚起情報はありません」としている。研究に使ったモデルの名前や、一般への提供は書かれていない。
まとめ
20年以上続いた疑いに、だれでも再現できる答えが出た。AIを安全の調査に使う例は広がっている(関連記事: PHPの「緊急」の脆弱性、AIを使った調査で見つかる)。
- Anthropic「Claude reveals ECDSA curve origins」(2026年10月16日)
- Filippo Valsorda「The NIST Elliptic Curves Seeds Bounty Has Been Claimed」(2026年10月16日)
- Filippo Valsorda「Announcing the $12k NIST Elliptic Curves Seeds Bounty」(2023年10月5日)
- NIST「FIPS PUB 186-2 Digital Signature Standard (DSS)」(2000年1月27日)
- NIST「SP 800-186: Elliptic Curve Domain Parameters」(2023年2月)
- CRYPTREC「CRYPTREC暗号リスト(電子政府推奨暗号リスト)」
- デジタル庁・総務省・経済産業省「暗号強度要件(アルゴリズム及び鍵長選択)に関する設定基準」(2022年3月)
- CRYPTREC「注意喚起情報」(2026年10月23日に確認)
記事に出てきたサービスを比べる
機能・料金の形・似たサービスは、姉妹サイト「サービス・システム大全」で比べられます。
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月23日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。