「絶滅したかも」とされた毒を持つ霊長類、インドネシアの島で90頭超を保護
1930年代から科学の記録が途絶え、絶滅したかもしれないとされてきた毒を持つ霊長類バンカスローロリス。インドネシアのバンカ島の保護団体が、10年余りで90頭超を助けていた記録が論文になった。
サイエンス- ●1930年代から科学の記録が途絶えた霊長類が、島の各地で生きていた
- ●地元の保護団体が2015年から90頭超を保護し、86頭を森に戻した
- ●家や庭、道路、電線で見つかる例が多く、すみかの森は減っている
スローロリスの仲間は、日本でも種の保存法で売り買いなどが原則として禁じられている。珍しい動物を飼いたいと思ったら、まず決まりを確かめたい。
研究チームは、遺伝子や生息数の調査、人の手での繁殖を提案した。レッドリストの「絶滅したかも」の印も見直すよう求めている。
インドネシアのバンカ島で、毒を持つ霊長類「バンカスローロリス」が今も生きていることを示す論文が出た。島の保護団体アロビ野生動物救護センターと、オーストリア・ウィーンの動物園ハウス・デス・メーレスなどのチームによるものだ。ドイツ・ミュンヘンで出る動物学の学術誌「SPIXIANA」の2026年10月号に載った。保護団体Re:wildなどが10月20日に発表した。
何が分かったのか
バンカスローロリス(学名 Nycticebus bancanus)は、スマトラ島の南東沖のバンカ島にすむ。となりのブリトゥン島にもいるかもしれないとされる。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは「CR(深刻な危機)」とされ、「絶滅したかもしれない」の印も付く。CRは、絶滅のおそれがある種で最も重い区分だ。最後に見られた年は1937年とされてきた。
ところがアロビは、2015年から2025年8月までに90頭を超える個体を保護していた。86頭は回復し、島の7か所の森に戻された。保護した場所は島の4つの県とパンカルピナン市のすべてにわたり、論文は島の広い範囲にすんでいる可能性があるとみる。
どうやって見つかったのか
きっかけは、住民や役所から電話やWhatsApp、SNSで届いた知らせだ。詳しい記録がある2021年以降の43頭では、16頭が家や庭に入り込んで見つかった。7頭は感電とみられるやけどを負い、6頭は道路で見つかった。少なくとも3頭は死んだ。市民が生き物の写真を投稿するサイト「iNaturalist」にも、島でこの種とみられる記録が3件ある。
アロビが保管する頭の骨では、上あごの前歯が2本だった。前歯が4本あるスマトラ島やジャワ島のスローロリスが持ち込まれたとは考えにくいという。
毒を持つ霊長類
Re:wildによると、スローロリスの仲間は毒を持つと知られる唯一の霊長類だ。上腕の内側にある腺から出る液をなめ、だ液と混ぜてかむ。かまれると痛み、はれることがある。2013年の総説論文によると、重いときには人がアナフィラキシー(急で激しいアレルギー反応)を起こし、死ぬこともある。今回の論文は、毒そのものは調べていない。
まだ分かっていないこと
- 種の見分けは、アロビの職員が毛の色と見つかった状況で行った
- この種を別の種とする根拠は見た目だけで、遺伝子で確かめる必要がある
- 保護した場所が、もとのすみかとは限らない。生息数も分かっていない
- 森に戻した後に生き延びたかは調べていない
すみかの森は、スズの採掘やアブラヤシの農園、住宅地で大きく減った。論文が引く研究では、2000〜2012年に62%減ったという。
日本との関わり
日本と関わるのは、取引の決まりだ。環境省によると、スローロリス属は2007年のワシントン条約の会議で附属書Iに移され、同年9月13日に効力が生じた。附属書Iの種は、商業目的の国際取引が原則禁止だ。国内でも、種の保存法の政令でスローロリス属の全種が「国際希少野生動植物種」とされる。許可や登録を受けた場合などを除き、売り買いや譲り渡しは禁じられている。
まとめ
バンカスローロリスは科学の記録からは消えていたが、島の人の暮らしのそばで生きていた。Re:wildは、地元の人の知識が保護を支えているとする。著者の一人ティモン・グラウ氏は、長く続く保護の計画が急いで必要だと話す。
- Sani L., Riadi E., Septian A., Menner J. & Glaw T.「Neglected but still alive: Further evidence for the continued existence of the Bangka Slow Loris (Nycticebus bancanus) on Bangka Island, Indonesia (Primates: Lorisidae)」(SPIXIANA 49巻1号 119-128ページ・2026年10月)
- Pfeil Verlag「SPIXIANA – Zeitschrift für Zoologie Band 49」(掲載号の目次)
- Re:wild「Venomous primate lost to science for nearly a century turns up in gardens and on roads, where local rescuers have found it for a decade」(2026年10月20日)
- Haus des Meeres「Gute Nachricht: Verschollene Affenart nach fast 100 Jahren wiederentdeckt!」(2026年10月20日)
- Re:wild「Lost Primates」
- Nekaris K. A. I. ほか「Mad, bad and dangerous to know: the biochemistry, ecology and evolution of slow loris venom」(Journal of Venomous Animals and Toxins including Tropical Diseases・2013年・DOI 10.1186/1678-9199-19-21)
- 環境省「ワシントン条約第14回締約国会議の結果概要について」(2007年)
- 環境省「ワシントン条約」
- e-Gov法令検索「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令」(別表第二)
- e-Gov法令検索「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(第十二条・第二十条)
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月23日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。