放射線帯の「破れない壁」の内側で電子が誕生 巨大宇宙嵐で「あらせ」が初観測
地球を取り巻く放射線帯には、危険な電子を通さない「破れない壁」があるとされてきた。2024年5月の巨大な宇宙嵐では、その内側で電子が新たに生まれていた。名古屋大学や京都大学などが、衛星「あらせ」の観測で突き止めた。
サイエンス- ●2024年5月の宇宙嵐で、「破れない壁」の内側に超高エネルギー電子が生まれた
- ●電子は壁の外から来たのではなく、壁の中で加速されたと「あらせ」がとらえた
- ●壁を満たすプラズマが薄くなり、宇宙の電波が電子を効率よく加速した
日本でもオーロラが見えるほどの嵐では、人工衛星を傷める電子が、安全とされた地球の近くでも生まれうる。
研究グループは今後、壁の内側の電子の行方を物理シミュレーションで追う。さらに大きな嵐で壁がどう変わるかの予測も目指す。
2024年5月、日本でもオーロラが見えたと話題になった巨大な宇宙嵐。空を見上げた人もいるだろう。そのさなか、研究者が「破れない」と考えてきた地球近くの壁の内側で、人工衛星を傷めかねない電子が生まれていた。
名古屋大学の三好由純教授や京都大学の栗田怜准教授らの国際研究グループが、JAXAの衛星「あらせ」のデータから突き止めた。両大学が10月27日に発表し、論文は米国地球物理学連合の「Geophysical Research Letters」に載った。
地球のまわりには、磁場にとらえられた高エネルギーの粒子が集まる放射線帯がある。別名、ヴァン・アレン帯。高エネルギーの電子が多いのは高度約18,000kmから30,000km付近で、宇宙嵐のたびに大きく増減する。
一方、高度12,000km以下は安定した領域だと考えられてきた。数百万電子ボルト以上の超高エネルギー電子が、ほとんど入ってこないからだ。研究者はこの領域を「インペネトラブル・バリア」、破れない壁と呼ぶ。存在を報告した論文は、2014年にNature誌に載った。
発表によると、壁には2つの「門番」がいる。地球の強い磁場と、一帯を満たす低温で濃いプラズマだ。強い磁場の影響で、外から近づく電子は速度が落ちる。入り込んだ電子も、プラズマとの相互作用で生じる「ヒス」という電波によって、すぐ大気へ落ちてしまう。
壁の内側で急増した電子
もっとも、「壁が破られた」といっても、外から電子が押し入ったわけではない。
「あらせ」がとらえたのは、壁のすぐ内側で、電子の量を表す「位相空間密度」が局所的に急増する様子だった。嵐の回復期に入ってからのことだ。この指標は、外から入ってきた電子とその場で生まれた電子とで、分布の仕方が違う。研究グループは、壁の中で電子が新たに生まれた決定的な証拠だとみる。
同じ場所、同じタイミングで、「コーラス波」という宇宙の電波も強く出ていた。音にすると鳥のさえずりのように聞こえる電波で、電子と共鳴すると、電子を高いエネルギーまで加速できる。
では、なぜ今回は壁の中で電子が生まれたのか。高度数百kmの電離圏で、「負の電離圏嵐」が起きたからだ。磁気嵐にともなって、電離圏の電子の密度が一時的に下がる現象をいう。
その影響で、壁を満たす低温のプラズマは、通常の2倍以上長く消えたまま戻らなかった。門番がいないあいだに、ふだんは壁の外側でしか発生しないコーラス波が壁のすぐ内側に現れ、薄いプラズマの中で電子を効率よく加速した。
衛星を守る予報へ
この電子は、人工衛星に障害を起こしうる危険な放射線だ。情報通信研究機構(NICT)の解説によると、高エネルギーの電子が衛星の外壁から入り込むと、内部に電気がたまる「深部帯電」が起きることがある。帯電が進めば放電が起き、周りの機器が傷む危険もある。
今回分かった仕組みを宇宙天気予報に取り入れれば、放射線環境をより正確に予測できると研究グループは期待する。NICTの宇宙天気予報サイトでは、静止軌道の高エネルギー電子の量を誰でもグラフで確認できる。量が「高い」レベルに達すると、臨時情報も出る。
壁の中で増えた電子は、その後、内側と外側の両方へ広がっていく。どこまで届き、いつまで残るのかは、まだ分かっていない。2024年5月の嵐は2003年以来最大級とされる。それを上回る嵐で壁がどこまで持ちこたえるのか、答えが出るのはこれからだ。
編集部が確認:。確認した監修者は、この下に載せています。
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。