蚊のオスがメスの羽音を追う理由 fruitless遺伝子がオスの耳をつくる 名古屋大など
蚊のオスは、夕暮れに飛んできたメスの羽音を聞きつけて追いかける。名古屋大学などのグループは、この行動に遺伝子fruitlessが欠かせないことをネッタイシマカで示した。この遺伝子が働かないオスは、耳の感度がメスの音からずれていた。
サイエンス- ●蚊のオスがメスの羽音を追うには、遺伝子fruitlessが欠かせない
- ●この遺伝子が働かないオスは集まらず、どの高さの音にも寄っていかなかった
- ●耳はメスの音に合わなくなり、聴覚神経の反応も約6分の1に弱まった
研究したネッタイシマカは日本に常在しないが、日本のほとんどの地域にいるヒトスジシマカもデング熱を媒介できる。蚊を減らす研究は、夏の暮らしとつながっている。
グループは今後、FruMが直接働きかける遺伝子を検証し、防除の標的を絞り込む。実際の蚊の対策に使えるかは、その先の研究しだいだ。
蚊のオスは、何を頼りにメスを探しているのか。答えは音だ。オスは夕暮れに群れをつくって待ち、飛んできたメスの羽音を聞きつけて追いかける。
その音を聞き取るオスの耳を、遺伝子fruitless(フルートレス)がつくっていた。名古屋大学の上川内あづさ教授らが米国アイオワ大学と共同で、デング熱などを媒介するネッタイシマカを調べて突き止めた。成果は学術誌「PLOS Biology」に載り、10月28日に名古屋大学と科学技術振興機構(JST)が発表した。
オスとメスでは、羽音の高さが違う。ネッタイシマカでは、オスが約750Hz、メスが約450Hzだ。オスはメスの音に寄っていくが、メスはオスの羽音に寄っていかない。約100年前から知られるこの違いを、どの遺伝子が生んでいるのかは分かっていなかった。
fruitlessは昆虫で、オスとメスの行動の違いを生む遺伝子だ。性そのものは決めず、神経をオス型に整える。オスの体でだけ、きちんと働くタンパク質「FruM」がつくられる。
グループは、FruMを持たないオスを調べた。飼育ケージを飛ぶ様子を追うと、ふつうのオスは中央付近に集まるのに、このオスは集まらない。音の実験では、ふつうのオスがメスの羽音に近い400〜500Hz付近の音に強く引き寄せられた。FruMを持たないオスは、どの高さの音を聞かせても寄っていかなかった。
耳の感度が、メスの音からずれていた
原因は、まず耳にあった。蚊の耳は触角にある。オスの耳は自ら振動して、いちばんよく聞こえる音の高さをメスの羽音に合わせている。ところが、FruMを持たないオスでは、この感度の山が高い音のほうへずれ、メスの羽音から外れていた。同じ強さの音を聞かせたときの聴覚神経の反応も、ふつうのオスの約6分の1しかなかった。
耳の中では、遺伝子の働き方も変わっていた。目立ったのは「ダイニン」という分子モーターの遺伝子だ。耳の神経細胞が振動を生むときに働くと考えられていて、オスとメスでは働く種類が違う。グループは、メスの耳でよく働くダイニンの遺伝子に、FruMが直接結合することも試験管内の実験で確認した。FruMはこうしたメス型の遺伝子を直接抑え、オス型の遺伝子を間接的に高めて、オスの耳を仕上げているとみられる。
蚊の対策にも関わる話だ。オスがメスの羽音を聞き分けられなければ、交尾が成り立たない。グループは、fruitlessやその下流で働く遺伝子を標的にすれば、繁殖そのものを妨げられる可能性があるとみている。
とはいえ、すぐに使える段階ではない。仕組みにも、まだ分からないところが残る。論文によると、FruMを持たないオスの耳も、まったく聞こえないわけではない。羽音に寄っていかなくなったのは、脳で音を処理する段階の変化も関わっているかもしれないと、グループは考えている。
調べたのはネッタイシマカだけだ。厚生労働省のQ&Aによると、この蚊は日本には常在していない。一方、日本のほとんどの地域で見られるヒトスジシマカも、デング熱を媒介できる。同じグループは2024年、この2種ではメスの羽音も、それを聞くオスの耳の特性も違うと報告した。ヒトスジシマカの耳でもfruitlessが同じように働いているかは、今回の研究では調べていない。
夏の夕方、耳元で鳴る蚊の羽音。人には不快なだけの音も、蚊どうしでは相手を見つけるための合図になっている。
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代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。