モスクワで「ロシア初」の脊髄移植 中国の医師も参加、執刀医は「世界初」と主張 効果を示す論文はまだ無い
モスクワ市のソビャーニン市長は10月16日、市内の救急医療の研究所で、ロシアで初めての脊髄の移植手術を行ったと発表した。手術は12時間かかり、中国の医師も加わった。報道によると、執刀医は「世界初」と話しているが、手術のやり方や効果を示す論文はまだ出ておらず、ほかの専門家による確認もない。
サイエンス- ●モスクワ市長が10月16日、スクリフォソフスキー救急医療研究所でロシア初の脊髄移植を行ったと発表した。手術は12時間で、中国の医師も参加した
- ●報道によると、3年前のけがで傷んだ患者の脊髄の一部を、脳死の人から提供された脊髄に置き換え、ポリエチレングリコールという物質でつないだ
- ●中国側の執刀医は「世界初」と話すが、ロシア側は「ロシア初」としている。効果を示す論文はまだ無く、ほかの専門家による確認も無い
脊髄を損傷した人や、その家族にとっては気になるニュースだが、今回は1人の患者での手術で、体を動かせるようになるかはまだ分からない。確かめられた治療法ではなく、日本で受けられるものでもない。治療については、主治医に相談したい。
報道によると、ロシア側は手術の内容をまとめた文書を後日公表するという。患者の体がどこまで回復するのかは、時間をかけて見る必要がある。ほかの専門家が審査した論文で、手術のやり方と結果が示されるかが焦点になる。
モスクワ市のセルゲイ・ソビャーニン市長は2026年10月16日、市内のスクリフォソフスキー記念救急医療研究所で、ロシアで初めての脊髄の移植手術を行ったと、自身のTelegramで発表した。中国の医師も加わった手術で、執刀した中国の医師は「世界初」だと話している。ただ、手術のやり方や効果を示す論文はまだ出ていない。
何が発表されたのか
ソビャーニン市長の発表は、次のような内容だ。
- 手術: 12時間かかる手術を、スクリフォソフスキー記念救急医療研究所で行った
- 患者: まったく体を動かせなくなるおそれがあった患者に、回復の見込みが出てきた。今は体調がよいという
- 位置づけ: モスクワで進めている、腕の移植の取り組みの続きにあたる
- 国際協力: 中国の医師が参加し、医療の技術を受け入れる取り組みの一つだという
市長の発表には、手術のくわしいやり方や、回復の見通しは書かれていない。
報道で伝えられた手術の中身
IT之家が伝えた英科学誌New Scientistの報道によると、手術をしたのは、中国・広西中医薬大学第二附属医院の任暁平(レン・シャオピン)氏のチームと、スクリフォソフスキー研究所のチームだ。
- 3年前のけがで完全に損傷した成人の患者の脊髄の一部を取り除き、脳死の人から提供された脊髄の一部に置き換えた
- ポリエチレングリコール(PEG)という物質を「生体用の接着剤」のように使い、細かな作業ができる顕微鏡の下で、提供された脊髄の両端を患者の脊髄とつないだ
- 任氏は、患者にすべてのリスクを説明したうえで手術をしたとし、「患者は今、状態がよい」と話した。ロシア側は、手術の内容をまとめた文書を後日公表するという
「世界初」かどうかは確かめられていない
任氏は「世界初」と話しているが、ソビャーニン市長は「ロシアで初めて」としている。IT之家は、ロシアの主な報道も「ロシア初」として伝えており、「世界初」とするのは任氏と、任氏と長く組んできたイタリアの神経外科医セルジオ・カナベーロ氏だけで、第三者や論文による確認はないと指摘している。
カナベーロ氏と任氏らは2021年、他人の脊髄を人に移植する手術の構想を、学術誌の論説で示していた。両氏は2015年ごろから、人の頭を別の体に移す構想を掲げ、多くの科学者から批判を受けたこともある。
かんたんに言うと
脊髄は、脳と体をつなぐ太い電線の束のようなものだ。けがで途中が切れると、その先の体に脳の指令が届かず、手足が動かせなくなることがある。今回の手術は、切れた部分を、亡くなった人から提供された電線に入れ替え、接着剤のような物質でつなごうとしたものだ。
ただ、電線と違い、脊髄の神経はいったん切れると、つなぎ直すのがとても難しいとされる。入れ替えた部分を通って、本当に信号が届くようになるかは、まだ分からない(TECHNOVAの見方)。
日本ではどうなるのか
今回の手術は、ロシアで1人の患者に行われたもので、確かめられた治療法ではない。日本で受けられる治療でもない。脊髄の損傷で治療を考えている人は、こうした報道だけで判断せず、主治医に相談したい。
まとめ
モスクワ市長は、中国の医師も加わった、ロシア初の脊髄の移植手術を行ったと発表した。報道によると、損傷した脊髄の一部を、脳死の人から提供された脊髄に置き換えた。執刀医は「世界初」と話すが、効果を示す論文はまだ無く、ほかの専門家による確認も無い。患者がどこまで回復するのか、論文での検証が待たれる。
- セルゲイ・ソビャーニン(モスクワ市長)公式Telegram「В Москве впервые в России провели операцию по трансплантации спинного мозга」(2026年10月16日)
- IT之家「中俄团队完成“全球首例”脊髓移植手术,患者术后状况良好」(2026年10月21日、英New Scientistの報道を紹介)
- www1.ru「Spinal cord transplanted for the first time in Russia」(2026年10月17日)
- Canavero S., Ren X., Kim C-Y.「Heterologous spinal cord transplantation in man」(Surgical Neurology International・2021年6月)
- ScienceAlert「Controversial Chinese Surgeon Signs on to Human Head Transplant Project」(2015年9月10日)
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月21日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。