ハリケーン「イサイアス」、米国の予報官はGoogleのAIに寄せた 進路は「とても正確」
10月9日に米フロリダ州に上陸したハリケーン「イサイアス」で、米国立ハリケーンセンターは進路の予報をGoogle DeepMindのAI気象モデルに寄せ、「とても正確だった」と書いた。日本の気象庁は、台風の予報にAI気象モデルを使うとはまだ発表していない。
AI- ●米国立ハリケーンセンターは、進路の予報をGoogleのAI気象モデルに寄せた
- ●物理モデルは西寄り、AIは東寄りの進路を示し、上陸はフロリダ州デスティン付近
- ●気象庁はAI気象モデルと従来モデルの併用を検討中。台風予報への導入は未発表
AIの進路図はネットでも見られるが、Googleも公式の予報と警報は各国の気象機関で確かめるよう求めている。日本で避難を決める基準は、気象庁と自治体の情報だ。
NHCによるイサイアスの正式な検証は、まだ公表されていない。気象庁の審議会は2027年2月頃にAI活用をとりまとめる予定で、台風予報にいつ入るかが次の焦点だ。
上陸のおよそ3日前、米国立ハリケーンセンター(NHC)の予報官は、予報の解説文で2種類のモデルの違いに触れた。AIを使うモデルは進路の予想の東寄りに集まり、従来のモデルより速く進むと示していた。2026年10月9日夜(米中部時間)、ハリケーン「イサイアス(Isaias)」は、その東寄りにあるフロリダ州デスティン付近に上陸した。
NHCが重く見たのは、Google DeepMindのAI気象モデルによる予報「GDMI」だ。条件を少しずつ変えた多数の予報を平均したものである。NHCは2025年から、AI気象モデルを実際の予報に使い始めた。
解説文で追う、上陸までの4日間
NHCは6時間ごとに予報を出し、その理由を解説文で公開している。進路の部分を抜き出した(米中部時間)。物理モデルは、大気の方程式を解いて予報する従来のモデルを指す。
| 日時 | NHCの解説文に書かれたこと |
|---|---|
| 10月6日 午後4時 | メキシコ湾で熱帯低気圧が発生。NHCの進路予報は、GDMIなどに最も近い |
| 10月7日 午前4時 | 熱帯暴風雨「イサイアス」に。AIのモデルは東、物理モデルは西に分かれる。NHCは東寄りを採るが、GDMIほど東にはしない |
| 10月8日 午前4時 | ハリケーンに。GDMIとHCCAに寄せる。2つは「今年いちばん成績のよい進路の予報」 |
| 10月9日 午前4時 | 新しい予報は「Google DeepMindの予報に非常に近い」。このモデルは「イサイアスでとても正確だった」 |
| 10月9日 午後8時30分 | 最大風速90ノット(秒速約46メートル)で、デスティン付近に上陸 |
HCCAは、複数のモデルを過去の成績で補正して平均した予報だ。
AI気象モデルは方程式を解かない
物理モデルは、いまの大気の状態を出発点に、大気の動きを表す方程式をスーパーコンピューターで解いて先を計算する。AI気象モデルは方程式を解かず、過去の膨大な気象データから学んだ関係で先を推定する。Google DeepMindは、28km四方という粗いデータでなぜ正確に予報できるのかは、まだ十分に分かっていないとしている。
NHCの担当者は米国立気象局(NWS)のサイトで、AI気象モデルは計算がずっと速く、誤差の出方も物理モデルと違うので、並べると予想の幅をつかみやすいと説明する。欧州中期予報センター(ECMWF)は、自前のAI気象モデル「AIFS」で、1回の予報に使うエネルギーが約1,000分の1になるとしている。
2025年の検証、GDMIの3日先の誤差は約123km
NHCが2026年3月にまとめた検証では、2025年の大西洋での3日先(72時間先)の進路の誤差は次のとおりだ。同じ嵐・同じ時刻の予報だけをそろえて比べた平均である。
| 予報 | 3日先の進路の誤差 |
|---|---|
| GDMI | 66.5海里(約123km) |
| NHCの公式予報 | 81.4海里(約151km) |
| ECMWFの物理モデル | 102.7海里(約190km) |
| 米国の物理モデル「GFS」 | 128.6海里(約238km) |
GDMIは12〜72時間先で、公式予報よりわずかに成績がよかった。強さの予報では、公式予報の成績がGDMIと同じくらいか、それ以上だった。
強さの予報と、まだ出ていない検証
イサイアスの強さでも、AIは手がかりになった。8日夜、Google DeepMindが出した複数の予報の過半数が一時的にカテゴリー3以上になると示し、NHCはこれを予報に反映した。イサイアスは9日午前、最大風速105ノット(秒速約54メートル)のカテゴリー3に強まった。
イサイアスについてのNHCの正式な報告(熱帯低気圧報告)は、10月25日時点で出ていない。AIと物理モデルがそれぞれどれだけ当たったのかを示す公式の数字は、まだない。NHCの担当者は、一つの嵐での当たり外れで新しいモデルの価値を決めないとし、従来のモデルのほうがよかった例もあると答えている。
気象庁は「併用」を検討する段階
気象庁は、台風の進路予報にAI気象モデルを使い始めたとは発表していない。AIの活用の例に「AI気象モデルと従来モデルの併用等による予報精度向上」を挙げている段階だ。
国土交通省の交通政策審議会気象分科会(事務局は気象庁)は、6月から先端AI技術の活用を話し合っている。9月の会合の資料で気象庁は、海外の大手IT企業(ビッグテック)が開発したAI気象モデルには「台風の進路予測精度では従来の数値予報より優れた結果を示すものもある」と書いた。10月19日の会合では、「気象庁の業務のあらゆる場面において積極的に先端AI技術を活用」とする中間整理の案を示している。とりまとめは2027年2月頃の予定だ。
台風の季節に見比べるなら
Google DeepMindの最新の予報は、Webサイト「Weather Lab」で見られる。8月には、2025年のハリケーンの季節に使ったモデルなどのプログラムと学習済みの重み(AIが学んだ内容を表す数値)も、無償で公開した。
進路の線の読み方にも注意が要る。気象庁の台風情報の予報円は、予報した時刻に台風の中心が70%の確率で入る範囲を示す。気象庁は、円の中心を結んだ線に沿って台風が進むとは限らないと注意している。Google自身も、公式の予報と警報は各国の気象機関で確かめるよう求めている。台風が近づいたら、判断は気象庁の台風情報と自治体の避難情報をもとにしたい。
- 米国立ハリケーンセンター(NHC)「Hurricane ISAIAS Advisory Archive」(2026年)
- NHC「Tropical Depression Nine Discussion Number 1」(2026年10月6日)
- NHC「Tropical Storm Isaias Discussion Number 3」(2026年10月7日)
- NHC「Hurricane Isaias Discussion Number 7」(2026年10月8日)
- NHC「Hurricane Isaias Discussion Number 10」(2026年10月8日)
- NHC「Hurricane Isaias Discussion Number 11」(2026年10月9日)
- NHC「Hurricane Isaias Discussion Number 12」(2026年10月9日)
- NHC「Hurricane Isaias Discussion Number 14」(2026年10月9日)
- NHC「National Hurricane Center Forecast Verification Report: 2025 Hurricane Season」(2026年3月30日)
- 米国立気象局(NWS)「AI in Hurricane Forecasting at the National Hurricane Center」
- 欧州中期予報センター(ECMWF)「ECMWF's AI forecasts become operational」(2025年2月25日)
- Google DeepMind「WeatherNext: AI model achieves breakthrough in forecasting cyclones」(2026年8月6日)
- 気象庁「気象庁におけるAIの活用」
- 気象庁「台風情報の種類と表現方法」
- 国土交通省「交通政策審議会:気象分科会」
- 気象庁「AI時代における気象業務」(第42回気象分科会 資料・2026年9月4日)
- 気象庁「第43回気象分科会 事務局資料」(2026年10月19日)
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月25日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。