顔や声をAIでまねた動画、デンマークが共有を違法にする法案 日本は解釈指針で対応
本人そっくりの顔や声をAIで作った動画や画像を、同意なく共有したら違法に。デンマークの文化大臣が10月8日、そんな法案を議会に出した。罰則ではなく、SNSなどに削除させるための法律だ。日本は、今の法律で守れる範囲を示した段階にある。
AI- ●本物そっくりの顔や声のまねを同意なく共有すると違法に。一般の人も守る
- ●広めた人への罰金や懲役は無く、SNSなどに削除させるのがねらい
- ●日本は法務省が8月、声も今の権利で守られうるとする報告書を公表
AIで作った自分の偽物は、有名人でなくても出回りうる。日本で見つけたときに削除や賠償を求める手がかりとして、法務省の報告書がある。
デンマークは年明けの施行をめざし、EU全体への拡大も働きかけてきた。日本では、不正競争防止法の改正を含め、法律を整える必要があるかの議論が続く。
2025年の夏、デンマークは「だれもが自分の体と声に権利を持つ」と打ち出した。AIで作った本人そっくりの偽物から国民を守るという計画で、当時の文化大臣によると、世界中の報道が取り上げた。その法案が、1年あまりたって議会に出た。
デンマークのゼニア・スタンペ文化大臣が2026年10月8日に提出したのは、著作権法の改正案だ。本人の同意なく、顔や声などを本物そっくりにまねたデジタルの複製を共有することを、違法にする。大臣は、年明けにも施行したいとしている。
有名人だけでなく、一般の人も守る
法案は、2つの保護を設ける。1つは、だれの顔や声も対象にした保護で、本物そっくりにデジタルでまねたものを、本人の同意なく共有させない。もう1つは、俳優や歌手などの実演家を対象に、演技や歌をまねたものの共有を禁じる保護だ。作品とまでは言えない即興の演技なども、著作権法で守られるようになる。
風刺やパロディーは、引き続き共有できる。法案は、風刺画、パロディー、風刺、権力や社会への批判を例外にした。ただし、偽情報にあたり、他人の権利や重要な利益を深刻に損なうおそれがあるものや、命や財産に具体的な危険が及ぶおそれがあるものは、例外にならない。
罰するより、消させるための法律
法案のもとになった2025年6月の政党間の合意によると、偽物を広めた人に、罰金や懲役は科されない。状況によっては、損害賠償を求められる場合がある。
ねらいは、SNSなどの事業者に削除させることだ。EUのデジタルサービス法(DSA)は、事業者に、違法な投稿への対応を義務づけている。偽物の共有を違法と定めれば、本人はこの仕組みを使って削除を求められる。通報に応じない事業者には、監督機関や欧州委員会が罰金を科すことがある。スタンペ大臣も、法案の大きな目的として、大手のIT企業に偽物をすばやく削除させることを挙げた。
効き目は、デンマークの中に限られる。デンマークで削除されても、ほかの国から見ると表示されたままのことがある。このため当時の文化大臣は2025年7月、EU全体で同じ保護を入れるよう働きかける考えを示し、アイルランドがデンマークの決まりにならうことを検討していると明かした。
法案は、予定より遅れて議会に出た。2025年の合意では、2025年から2026年にかけての冬に出す予定で、2025年10月の時点でも、2026年の初めに議会で扱うとしていた。
日本は、今の法律で守れる範囲を整理した
日本では、顔や声を守る権利は法律の条文に書かれておらず、裁判の積み重ねで中身が示されてきた。生成AIでどこまでが権利の侵害になるかが分かりにくいという指摘を受け、法務省は2026年8月7日、検討会の報告書を公表した。副題は「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」だ。
報告書は、人の声も、顔などの肖像と同じように守られうるとした。有名人の顔や声が持つ商売の上の価値を守る「パブリシティ権」と、だれもが持つ「肖像等をみだりに利用されない権利」の両方だ。お金を得る目的が無くても、権利の侵害にあたるかどうかには直ちには影響しない。性的な偽画像の例では、相手が一般の人でも、俳優と比べて大きな差は出にくいとした。侵害が認められれば、損害賠償や投稿の削除を求められる。
違いは、守り方の組み立てにある。日本の報告書は、新しい決まりを作ったものではなく、今の法律と裁判の考え方を当てはめたものだ。被害に遭った人が侵害を訴え、事案ごとに判断される。デンマークの法案は、共有そのものを違法と定め、事業者の削除の仕組みにつなげる。
日本でも、法律を整える議論は続いている。法務省の資料によると、政府の「知的財産推進計画2026」は、不正競争防止法の改正を含め、法律の整備が必要かどうかも議論を続けるとしている。声優や俳優が入る日本俳優連合は、声そのものを包括的に守る法律が日本に無いことを挙げ、法律づくりを国に求めている。
- デンマーク文化省「Kulturminister vil dæmme op for delinger af digitale efterligninger fra årsskiftet」(2026年10月8日)
- デンマーク文化省「Bred aftale om deepfakes giver alle ret til egen krop og egen stemme」(2025年6月26日)
- デンマーク文化省「Værn mod deling af digitale efterligninger af personlige kendetegn」(政党間の合意、2025年6月26日)
- デンマーク文化省「Kulturministeren vil udbrede deepfake-lov til resten af Europa」(2025年7月16日)
- デンマーク文化省「Deepfakes, produktionsrabat og mindre bureaukrati er på årets lovprogram」(2025年10月7日)
- 法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書の公表について」(2026年8月7日)
- 法務省「取りまとめ報告書―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―【概要資料】」
- 法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会の開催について」(2026年4月24日)
- 日本俳優連合「音声に関する生成AI利用ガイドライン」発表(2026年10月15日)
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月25日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。