紙とフィルムの地磁気記録140万枚を公開 過去の磁気嵐を読み直す
電子的な観測が広まる前の磁気嵐は、印画紙やフィルムに焼き付いた線に記録が残る。その約140万枚を集めたサイト「COMPASS」を実際に開き、何が見られるのか、なぜ停電への備えになるのかを追った。
サイエンス- ●世界121か所の観測所が紙とフィルムに残した記録、約140万枚を公開
- ●図書館や美術館が使う国際規格IIIFを、地磁気の記録で世界で初めて採用
- ●記録の線は1分ごとの変化まで読め、昔の激甚磁気嵐の研究に役立つ
オーロラや宇宙が好きな人は、昔の観測所の記録を自分のパソコンで拡大して見られる。授業や自由研究の題材にもなりそうだ。
研究グループは、AIで記録を自動的に数値にする技術の開発も進める。11月10日には、北海道大学で開かれる学会で成果を発表する予定だ。
記録が紙やフィルムにしか残っていない昔の磁気嵐を、今から調べ直すことはできるのだろうか。
手がかりは、世界121か所の観測所が100年以上、印画紙やマイクロフィルムに残してきた地磁気の記録だ。その約140万枚が、ウェブサイト「COMPASS(コンパス)」で見られるようになった。名古屋大学宇宙地球環境研究所の早川尚志助教と、京都大学、名古屋市立大学の研究グループが10月30日に発表した。論文は9月11日付で、国際学術誌「Earth, Planets and Space」に掲載済みだ。
記録のしかたが面白い。磁石に小さな鏡を付けて光を当て、その反射光を、回転するドラムに巻いた印画紙で受ける。地磁気が変わって磁石の向きがわずかに動けば、その動きが線になって焼き付くわけだ。こうした記録はマグネトグラムと呼ばれ、多くはマイクロフィルムに写して保存されてきた。COMPASSの画像も、大半はこれをデジタル化したものだ。
ただ、手のかかる観測だった。COMPASSの解説によると、測定は暗室で行い、印画紙を取り替えるにも人手が要った。大きな乱れがあると線どうしが交差し、フィルムでは見分けにくくなることもある。
大きな磁気嵐への備えは、昔の記録から
では、なぜ今、古い記録なのか。磁気嵐は、太陽から大量のガスが吹き付けて、地磁気が大きく乱れる現象だ。特に大きな激甚磁気嵐は、停電や人工衛星の故障、通信障害を引き起こすことがある。将来起こりうる最大級の磁気嵐を見積もるには、電子的な観測が広まる前の記録も欠かせない。研究グループは、それを「二度と取り直すことのできない貴重な記録」と呼んでいる。
研究グループが示した例は、北海道でも赤いオーロラが見られたとされる1957年9月13日の磁気嵐。COMPASSなら、数値データがまだどこにも無いアルジェリアと南極の記録を並べ、地球規模の乱れを確かめられる。
画像の提供には、IIIF(トリプルアイエフ)という国際規格を使った。図書館や美術館が古文書や絵画の公開に使う取り決めで、これに沿った画像なら、どの機関のものでも同じ閲覧ソフトで拡大したり並べたりできる。地磁気の観測データへの採用は、世界で初めてという。拡大は元の解像度まで。磁場の波形を1分ごとの変化まで読み取れる。
英国地質調査所が公開する同じような画像集は約25万枚で、COMPASSはその5倍以上。記録は41か国に及び、古いものは1844年にヘルシンキで手書きされた観測表までさかのぼる。
開くと、手書きの文字まで読める
COMPASSはブラウザーで見られ、試したかぎり会員登録やログインは求められなかった。入口には日本語版もあるが、閲覧ソフトや検索の画面は英語だ。観測所の一覧には、柿岡や女満別、鹿屋、南極の昭和基地など、日本の観測所も並ぶ。
たとえばカザフスタンの「Alma Ata」の記録を開くと、波打つ線と、ロシア語で手書きされた日付や地名が現れた。記録は日付順に並び、本のページをめくるように見ていける。元のスキャン画像を保存できる「Download」のボタンもある。もっとも、ライセンスは非営利の利用に限るCC BY-NC 4.0で、商業利用には関係機関への問い合わせが要る。
研究グループは今後、磁気嵐が現れた位置や、線をなぞって数値にしたデータを、画像に重ねて示せるようにする計画だ。暗室で焼き付けられた1本の線が、次の大きな磁気嵐への備えにつながる。そう思って眺めると、古いフィルムも少し違って見えるかもしれない。
編集部が確認:。確認した監修者は、この下に載せています。
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。