JST、半導体を流れる伝導正孔の空間分布を初めて可視化したと発表
JSTは、半導体を流れる伝導正孔の空間分布を初めて可視化した研究成果を発表した。素子全体の平均ではなく、動作する環境で直接観測したという。正孔とは何か、今回何が見えたのか、研究の意義を整理する。
サイエンス- ●JSTが、伝導正孔の空間分布を初めて可視化した研究成果を発表
- ●素子全体の平均ではなく、動作する環境で直接観測
- ●正孔の観測に必要な条件と手順も明らかにした
半導体の仕組みに関心がある人にとって、電子だけでなく「電子が抜けた穴」も働くことが分かる研究だ。
太陽電池や発光デバイスの評価・開発に、正孔の分布を観測する手法が役立つ可能性がある。
科学技術振興機構(JST)は、半導体を流れる伝導正孔の空間分布を初めて可視化した研究成果を発表した。論文は2026年10月21日(現地時間)、学術誌Applied Physics Reviewsに掲載された。
何が見えるようになったのか
今回の対象は、半導体の中で電荷を運ぶ「伝導正孔」だ。JSTによると、半導体素子の一種である電界効果トランジスタが動作する環境で、正孔を直接観測したという。
従来の電気計測では、伝導正孔を素子全体の平均的な情報として捉えていた。今回の発表のポイントは、その空間分布を可視化したことにある。全体をまとめた情報から、どこに分布しているかを捉える観測へ進んだ形だ。
研究には日本のKEK、筑波大学、物質・材料研究機構(NIMS)が参加した。JSTの創発的研究支援事業の支援を受けている。
かんたんに言うと、電子が抜けた「空席」
正孔とは、電子で満たされた状態から、電子が抜けて残った穴のことだ。説明のために、席が埋まった場所に空席ができた様子を思い浮かべると分かりやすい。
隣の人が空席へ移ると、空席の位置も移る。このたとえでは、人が電子、空席が正孔に当たる。「穴が流れる」という捉え方のイメージだ。
伝導正孔は、伝導電子と同様に、半導体素子を動かす電荷の担い手となる。今回観測したのは、単なる材料の穴ではなく、この働きを持つ正孔の分布である。
観測装置だけでなく、条件と手順も示した
観測には、フェムト秒光電子顕微鏡を使った。短い時間の光を出すパルスレーザーを光源とする観測装置だ。
JSTによると、研究では伝導正孔の観測に必要な条件も初めて特定した。トランジスタ内の膜の厚さなどが均一でないことも、正孔の観測に影響するという。
つまり、どのような装置を使うかに加え、観測する素子の状態も関わる。研究では、伝導正孔を観測するための手順も詳しく解説している。可視化の結果だけでなく、観測の進め方も示した発表だ。
まとめ
今回の成果は、半導体を動かす担い手の分布を、直接観測した点にある。素子全体の平均的な情報とは異なる形で、伝導正孔を捉えたという。
JSTは、太陽電池や発光デバイスなどの評価・開発への応用を期待している。正孔の分布を調べる手法が、こうした素子を評価する手掛かりになる可能性がある。
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月22日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。