物が冷える・温まる速さには限界、量子力学が決める「最短時間」をウィーンなどのチームが証明
物が周りの温度になじむ「熱平衡」までの時間には、量子力学が決める下限がある。オーストリア科学アカデミーの研究所などのチームが、どんな装置でも越えられない下限を証明した。下限は温度と2つの自然の定数だけで決まり、温度が低いほど長くなる。
サイエンス- ●物を目標の温度に落ち着かせる時間に、量子力学が決める下限があると証明された
- ●下限は温度と2つの自然の定数だけで決まり、温度が低いほど長くなる
- ●量子コンピューターでも、量子力学に従うどんな装置でもこれより速くはできない
冷蔵庫のような装置も含め、量子力学に従うどんな装置でも、物を目標の温度に落ち着かせる時間はゼロにできない、という決まりの話だ。冷やし方のこつの研究ではない。
研究チームは、たくさんの粒が集まった大きな物で下限がどう現れるかや、現実の熱の受け皿がどこまで下限に近づけるかを、今後の課題に挙げている。
オーストリア科学アカデミーの量子光学・量子情報研究所(IQOQI Vienna)などのチームが、新しい証明を示した。物が周りの温度になじむまでの時間には、量子力学が決める下限があるという。成果は2026年9月24日、物理学の学術誌「Nature Physics」に載った。
何が分かったのか
熱いものが冷めたり、冷たいものが温まったりして、ある温度で落ち着いた状態を「熱平衡」と呼ぶ。冷蔵庫に入れた飲み物が、やがて庫内と同じ温度になるのもその例だ。
研究チームは、熱平衡にするのにかかる時間τ(タウ)が、τ ≥ τPl/2 を満たすことを示した。τPl = ℏ/(kBT) は「プランキアン時間」と呼ばれる。ℏ(換算プランク定数)とkB(ボルツマン定数)は自然の決まった数で、Tは目標の温度だ。最短時間は温度と2つの定数だけで決まり、温度が低いほど長くなる。
ごく低い温度では、物はいちばん低いエネルギーの状態(基底状態)に近づく。このときの下限はℏ/Δに変わる。Δは、基底状態とその次の状態とのエネルギーの差だ。
どうやって確かめたか
実験ではなく、数式での証明と計算機での計算だ。研究チームは、考えの上の「熱平衡化マシン」を定めた。量子力学に従うことのほかは、大きさにも物とつなぐ強さにも制限がない装置で、周りの環境もすべてその一部とみなす。
ただし、物のエネルギーの決まり方(ハミルトニアン)が前もって分かれば、特別な仕掛けで熱平衡の状態をごく速く作れる。そこで、ハミルトニアンが違う物にも、同じ手順でそれぞれの熱平衡を作れることを条件にした。
物が違えば、行き着く熱平衡も違う。装置は決まった時間の中で、違う結果を出し分けなければならない。ところが量子力学では、決まった時間の中で、結果どうしをどこまで見分けられるようにできるかに限りがある。ここから下限が出てくる。
バルセロナ自治大学のマルティ・ペラルナウ=リョベ氏は「鍵となる考えは、思いがけない分野から来た。量子計測だ」と話す。量子計測は、量子力学を使ってごく小さな違いを測る研究だ。チームは、2つのハミルトニアンの組について、この下限ちょうどの速さで熱平衡にできる装置も示した。IQOQI Viennaのパオロ・アビウーゾ氏はこう話す。「量子コンピューターでも、量子力学に従うどんな装置でも、物をこれより速く熱平衡にはできない」
冷蔵庫の冷え方との関係
この下限は、熱の受け皿や仕組みを問わない。一方で、論文と発表は、熱が缶や瓶を通って伝わる速さ(熱伝導)や、庫内の空気が動いて熱を運ぶ働き(対流)は扱っていない。実際の冷え方は、この下限より長くかかることはあっても、短くはならない、という意味の限界だ。氷水や塩水で早く冷やす方法などの話も、論文には出てこない。
日本との関係
チームには、ウィーン工科大学、スペインのバルセロナ自治大学、スイスのジュネーブ大学の研究者も加わった。日本の研究機関は加わっていない。論文は、誰でも無料で読める形(オープンアクセス)で公開されている。
まとめ
IQOQI Viennaなどのチームは、物を熱平衡にする時間に、量子力学が決める下限があることを証明した。下限は温度と2つの自然の定数だけで決まる。チームは、大きな物で下限がどう現れるかや、現実の熱の受け皿がどこまで近づけるかを、今後の課題に挙げている。
チェック済み。この記事は監修者によってチェックされました。(2026年10月23日)
代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。