京都大学、KRAS変異がんがDNA複製ストレスに耐える分子スイッチを解明
京都大学は、KRAS変異がんがDNA複製の負荷に耐える仕組みを発表した。酵素PrimPolの状態が、減速するか、難しい部分を残して先へ進むかを切り替えるという。新たな治療法や予防法の開発につながることが期待される基礎研究だ。
- ●京都大学がKRAS変異がんの複製ストレス耐性機構を発表
- ●酵素PrimPolの状態がDNA複製の進め方を切り替える
- ●新たながん治療法や予防法の開発に向けた基盤となることが期待される研究だ
がんの治療や予防に関心がある人にとって、がん細胞が負荷に耐えて生き残る仕組みを知る研究だ。
複製の進め方を切り替える仕組みの理解が、新たながん治療法や予防法の開発につながる可能性がある。
京都大学は2026年10月7日、KRAS変異がんがDNA複製ストレスに耐える仕組みを発表した。DNAは遺伝情報を担う物質で、その複製の進め方を切り替える分子スイッチを見いだしたという。
何が発表されたのか
京都大学によると、KRASは多くのがんで変異が見られる代表的ながん遺伝子だ。KRASが活性化した細胞では、DNAの複製に強い負荷がかかる。この状態を「DNA複製ストレス」と呼ぶ。
負荷がかかっても、細胞が複製を続けて生き残る仕組みは十分に分かっていなかった。今回の研究は、その仕組みに着目したものだ。
研究を実施したのは、東京医科大学と京都大学の研究グループだ。京都大学の五十嵐太一特定研究員、安原崇哲教授らが参加した。
かんたんに言うと
DNAの複製を、長い文章を書き写す作業にたとえる。写しにくい箇所に出会ったとき、速度を落として作業を保つ方法がある。一方、その箇所をいったん残し、先の部分から書き写しを再開する方法もある。
研究グループが着目したのは、DNA合成の再開を担う酵素PrimPolだ。酵素とは、体内の反応を助ける物質を指す。
複製が難しい領域を一時的に残し、その先からDNA合成を再開することを「リプライミング」と呼ぶ。たとえの中では、写しにくい箇所を残して先へ進む方法に当たる。難しい領域をその場ですべて複製するのではなく、先から再開する点が特徴だ。
進め方を変える分子スイッチ
京都大学によると、PrimPolは「リン酸化」の状態に応じて働き方が変わる。リン酸化とは、分子にリン酸が付く変化のことだ。
リン酸化されていないPrimPolは、複製を減速させる。同時に、複製フォークと呼ばれるDNA複製が進む部分を安定に保つという。
一方、PrimPolがリン酸化されると、リプライミングを促す。大学は、この状態の違いが複製の進め方を切り替えるスイッチとして働くとしている。
大学によると、この仕組みはKRAS変異がんの発生や、がん細胞の多様化を支える。研究成果は2026年10月1日、国際学術誌「Nature Communications」に掲載された。
まとめ
今回の成果は、がん細胞がDNA複製の負荷に耐える仕組みを示す研究だ。発表の中心は、PrimPolの状態と複製の進め方の関係にある。
京都大学は、新たながん治療法や予防法の開発に向けた基盤となることを期待している。この切り替えの理解が、治療や予防の研究につながる可能性がある。